発達障害 理解を支える3つのステップ|家族・支援者の関わり方

 発達障害のある子どもや大人と接する中で、「どう接すればよいのか」「理解しているつもりでも、支援が正しいのか不安」と悩む方は少なくありません。

 看護師として医療の現場で働く中で、発達障害を持つ患者さんと接する機会も多く、関わり方に悩む方も多いでしょう。発達障害の理解は一朝一夕で得られるものではなく、正しい知識と日常生活に即した関わり方が必要です。

 本記事では、発達障害の理解について次の3つのステップに分けて解説します。

・基礎知識を正しく学ぶ
・日常で使える関わり方を工夫する
・地域や制度とつながる

 発達障害の理解を深めることで本人の特性を尊重した関わりができ、家族や支援者自身の負担も軽減されます。そのための日常で活かせる実践的なヒントをお届けします。

この記事を書いたひと:shannmama

発達障害の理解を深めるための基礎知識

発達障害とは何か:主な特性と診断基準

 発達障害は脳機能の発達が原因で、社会的コミュニケーションや行動の特性が生涯にわたって現れる状態を指します。

 発達障害の原因が、親の関わり方や教育など周囲の問題ではなく、脳機能の障害によるものだと周囲が理解することで、接し方も変わってきます。

 大切なのは「診断名」よりも個々の特性を把握することであり、生活場面での困りごとを減らす具体的な支援につながります。

代表的な発達障害の種類

代表的な発達障害の種類と特徴

発達障害の種類特徴
自閉スペクトラム症(ASD)・対人関係が苦手・物事に強いこだわりを持つ
注意欠如・多動性障害(ADHD)・年齢や発達に比べて注意力が足りない・衝動的で落ち着きがない
学習障害(LD)・知的な遅れはないが、読み書きや計算など特定の学習領域で困難を示す

 診断は医師が行い、行動観察や発達歴、検査結果を総合して判断されます。

 複数の障害が重複して現れることもあり、障害の程度や発達段階などひとりひとり異なるプロファイルを持ちます。このことを理解しておくだけで、発達障害の見方や接し方は大きく変わってきます。

発達障害の誤解されやすいポイントと正しい理解

 「わがまま」「やる気がない」といった誤解は、適切な支援を遅らせる原因になります。

 医療の現場で、教育や指導が必要なことがあります。なかなか伝わらない、理解が得られない場合でも、発達障害の特性を知っているか知らないかで、関わり方は大きく変わってきます。

 発達障害の理解とは、行動の背景にある感覚過敏や情報処理の違いに注目することです。環境や伝え方を工夫すれば、本人の能力をより引き出すことができます。

STEP1:基礎知識を正しく学ぶ

発達障害理解の第1ステップは、まず支援者が基礎知識を正しく学ぶことです。
知識を得るためには、次のような方法があります。

・本や専門サイトから学ぶ基本情報
・医療機関・専門家からの情報収集
・学校や地域での研修・講座の活用

本や専門サイトから学ぶ基本情報

 基礎知識は書籍や信頼できる専門サイトで得られます。今はSNSで発信することも多いですが、正しい情報を見極めることも大事です。

 情報はアップデートされるため、常に定期的な確認が重要です。
 自分自身が用語や診断の枠組みを学んでおくことで、専門家との話し合いがスムーズになります。

医療機関・専門家からの情報収集

 子どもの発達について疑問がある場合は、全国の都道府県、政令指定都市に設置されている発達障がい者支援センターに相談してみましょう。熊本であれば、熊本県発達障がい医療センターのHPをご参照ください。

 お悩み内容や相談内容に応じて、相談先を案内してくれます。

 発達障害の分類などセルフチェックができるようなサイトも数多くありますが、自己判断はおすすめできません。
 専門家は評価だけでなく、具体的な支援計画やしかるべき専門機関への紹介、地域リソースの案内をしてくれます。

STEP2:日常で使える関わり方を工夫すること

 発達障害理解の第2ステップは、日常で使える関わり方を工夫することです。
 支援者が専門的な知識を得た上で、次のようなことを意識して関わり方を工夫していきましょう。

・コミュニケーションの工夫と環境調整
・ポジティブなフィードバックと自己肯定感の支援
・支援者自身のストレスケアと相談体制の確保

コミュニケーションの工夫と環境調整

 支援者は伝え方をシンプルにし、視覚的な支援を取り入れることで理解が深まります。
 具体的な関わり方の工夫について解説します。

関わり方の工夫①視覚的サポートやスケジュール管理の活用

 具体的な手順を絵や写真で示し、時間の流れを視覚化することで、予測可能性が高まり、日常の移行がスムーズになります。

   

 ルールや期待を可視化しておくことで、不安の軽減につながり、トラブルを予防できます。

関わり方の工夫②感覚過敏やこだわりへの理解と対応

 音や光、触覚に過敏な場合は、カーテンやヘッドフォンなどを使って刺激をコントロールし、こだわり行動には代替手段や段階的な慣らし方を用いることが有効です。


 

 避けては通れない場面もあるので、そこは無理に変えようとするのではなく、本人の安心感を尊重しながら支援する視点が大切です。

ポジティブなフィードバックと自己肯定感の支援

 ポジティブなフィードバックとして小さな達成を具体的に伝えて認めることは、自己肯定感を育てます。

 うまくいかないことがあったとしても、日頃から成功体験を積ませる工夫が、次の挑戦意欲につながります。

支援者自身のストレスケアと相談体制の確保

 発達障害の問題は関わりを重ねることで徐々に理解を得ていくので、支援は長期戦です。そのため、家族や支援者が疲弊すると対応が難しくなります。

 支援者の心構えとして、定期的な休息、同僚や専門家との相談、外部サービスの活用を制度的に整えておくことが重要です。

症例紹介

ここでひとつ、症例を紹介します。発達障害を持つ方にインシュリンの自己注射の指導をする機会があり、手順を何度伝えても毎回指導が必要で、どうすれば伝わるかと考えました。

その方にはインシュリン処置のほかに、バイタル測定と与薬のケアがあり、次に何が行われるかと混乱を招くことがあったため、入室時からケアの流れを決めて、スタッフ間で統一するようにしました。

スケジュールをあらかじめ決めておくことで、予測可能性を高め、次の行動への移行がスムーズになりました。

STEP3:地域や制度とつながること

 発達障害理解の第3ステップは、地域や制度とつながり、様々な資源を活用することです。

資源①家族同士・支援者同士の交流と情報共有
資源②学校・福祉・医療の連携で生まれるサポート
資源③行政や地域の支援制度の活用

資源①家族同士・支援者同士の交流と情報共有

似た経験を持つ家族同士の交流は心理的支えになり、具体的な工夫の情報源になります。地域のサポートグループやオンラインコミュニティを活用しましょう。

     

資源②学校・福祉・医療の連携で生まれるサポート

 医療機関で診断を受けることで、学校の特別支援コーディネーターや福祉サービスとの連携につながり、本人にとって安定した、一貫した支援環境が実現します。

 教育機関における発達障害についての理解は、ここ20年ほどの間に広がりました。平成17年に発達障害支援法が制定され、学校教育法の改正により、平成19年より特別支援教育が本格的に実施されました。

 今でこそ発達障害の理解があり、本人にとって安定した支援環境の実現が可能となりましたが、理解されない時代があったことを忘れてはいけませんね。

 大人になって、福祉サービスを利用しながら、支援環境を整えていくことが重要であり、私たちもそのための支援者でありたいと思います。

資源③行政や地域の支援制度の活用

 自治体が提供する相談窓口、発達支援の窓口、補助制度を把握することは重要です。

 発達障害を持つ方が受けることができる障害福祉サービスには、以下のようなものがあります。

・自立支援医療制度
・障害年金
・医療費の減額
・税金の免除
・公共サービスの割引

 早期から制度を利用すれば、負担軽減と適切な支援につながります。サービスを利用するにあたって必要なものなど、まずは調べてみることから始めてください。

→自立支援医療についての記事はこちら

発達障害の理解を支える社会の動向

インクルーシブ教育の広がりと課題

 学校現場でのインクルーシブ教育は着実に広がっていますが、一方で教員の負担や個別支援体制の不足といった課題があります。

 国の様々な制度と、現場が噛み合うことが求められます。

職場での発達障害理解と合理的配慮

 成人期の支援も重要です。職場での配慮や就労支援を通じて、発達特性を持つ人が社会で活躍できる環境づくりが進められています。

 就労支援事業について、いくつかご紹介します。

①『すぐにでも就職したい、就職先を紹介してほしい』

・障がい者向けチーム支援

 ハローワーク職員と福祉施設の職員、その他の支援者でチームを結成し、就職から職場定着まで一貫した支援を実施しています。

引用:厚生労働省HPより

・障がい者トライアル雇用事業

 障がい者を一定期間(原則3ヶ月)試行雇用することにより、適性や能力を見極め、求職者と事業主の相互理解を深めることで、継続雇用への移行のきっかけとしていただくことを目的としています。

引用:厚生労働省HPより

②『職場定着のための支援をしてほしい』

・職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業

 障がい者の職場適応に課題がある場合に、職場にジョブコーチが出向いて障害特性を踏まえた専門的な支援を行い、障がい者の職場適応を図ることを目的としています。

 ジョブコーチには、配置型、訪問型、企業在籍型などがあります。

引用:厚生労働省HPより

事業者側への助成金制度や、ジョブコーチ研修制度等もあります。

まとめ|発達障害の理解を支える3つのステップ

発達障害の理解を支えるには、以下の3つのステップが重要です。

STEP1:基礎知識を正しく学ぶこと
STEP2:日常で使える関わり方を工夫すること
STEP3:地域や制度とつながること

 発達障害の理解は単なる知識獲得にとどまらず、実践と連携を通じて深まります。

 家族や支援者が一人で抱え込まず、周囲と協力しながら継続的に取り組むことで、本人の可能性を伸ばす支援が実現します。

この記事を書いたひと:shannmama

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