自立支援医療制度とは?
普段から病院に通うと3割負担だったとしても、少し検査をしたり、薬をもらうと支払いが高いなと感じることはないでしょうか。心身に障害をお持ちで定期的な通院を必要とする方の自己負担はより大きなものになります。
自立支援医療制度は、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。
分かりやすくお伝えすると、受診代や薬代を1割にできるうえ、一定の上限額以上は自己負担が免除されます。
この制度には、対象や負担額の違いがあるほか、申請や更新のルールもあります。今回は、申請および利用数が急増している精神通院医療について、これまで実際に熊本県、熊本市で数百件以上の申請更新をサポートしてきた経験から、詳しく解説していきます。
病院や地域のご担当者様、訪問看護職員様に改めて参考にしていただけると幸いです。
1.自立支援医療の概要
この制度の該当者は次の3者となっています。
- 精神通院医療:統合失調症などの精神疾患を有する者で、通院による精神医療を継続的に要する者
- 更生医療:身体障害者手帳の交付を受けた者で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳以上)
- 育成医療:身体に障害を有する児童で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により確実に効果が期待できる者(18歳未満)
上記の通り、(1)の精神通院医療は、精神疾患で継続的な通院をする方、(2)の更生、(3)の育成は、身体障害をお持ちで手術等の治療により効果が期待できる方となります。
下記に、最新の統計データである2019年から、5年前、10年前の支給決定数を示します。
(参考:e-Stat 政府統計の総合窓口 福祉行政報告例 障害者総合支援)
以上の件数から、自立支援制度の約9割近くを精神通院が占めていることが分かり、その数は全国的にも、そして熊本でも増え続けていることからは、精神疾患でお悩みの方やその家族が特に増え続けていることがよく分かります。
自立支援医療(精神通院医療)の対象となる疾患について
上記の通り、自立支援医療(精神通院医療)の対象となるのは、治療を継続的に必要とする人です。
申請には医師の意見書が必要であり、医師が必要であると判断し、なおかつ、自治体が認めた場合に受けることができます。
対象疾患の例として、
・統合失調症や妄想性障害
・うつ病、双極性障害などの気分障害
・神経症性障害(不安障害、パニック障害、強迫性障害)
・発達障害、知的障害
・認知症、てんかん
などがあげられます。最終的には、医師と自治体が認定するかどうかが大事になります。
2.自立支援医療における自己負担の仕組み
「医療費が1割になる」との説明が多いのですが、それだけでは理解が難しいものです。以下に図と例で説明いたします。
例1:上限額2500円のケース
ひと月 病院代500円、薬局代2000円=上限である2500円に到達
その月は、これ以上何度受診しても、薬をもらっても、訪問看護を受けても自己負担金は発生しない
例2:上限額5000円のケース
ひと月 病院代1000円、薬局代3000円=計4000円
訪問看護月の初回はおよそ1300円であるが、負担金は1000円=上限である5000円に到達
その月は、これ以上何度受診しても、薬をもらっても、訪問看護を受けても自己負担金は発生しない
また、1割負担の適応可否や負担上限額の基準も難しいですが、以下に図を作成しておりますのでご参考ください。
(参考:厚生労働省HP 障害者福祉 自立支援医療)
参考として、熊本市の非課税世帯(均等割、所得割のいずれも課税されない方)について一部抜粋しております。
- 生活保護法の規定による生活扶助を受けている方
- 障害者、未成年、寡婦またはひとり親で、かつ前年中の合計所得金額が1,350,000円(給与収入で2,043,999円)以下の方
- 前年中の合計所得金額が次の金額にあてはまる方
扶養親族(同一生計配偶者を含む)がいない場合
415,000円(給与収入で965,000円)以下
扶養親族(同一生計配偶を含む)がいる場合
315,000円×(本人+扶養人数)+189,000円+100,000円 以下
(参考:熊本市HP 健康福祉局 障がい者支援部 こころの健康センター 自立支援医療(精神通院医療))
3.自立支援医療支給の注意点
- 入院費や向精神薬以外は対象にならない
あくまでこの制度は通院に関するものですので、入院にかかる費用については対象になりません。また、心理士等が行うカウンセリングについても基本的に対象外となります。特に注意が必要なのがお薬代であり、精神科受診で便秘に対して緩下剤を処方されても、その分の薬は別で支払いが必要となります。 - 指定医療機関になっている病院や薬局、訪問看護に限られる
3種類ある自立支援医療制度は、それぞれで都道府県に届出が必要なものとなっています。熊本県内では、多くの病院や薬局が届出を出していますので対象の期間がほとんどですが、訪問看護では届出を出していないステーションもありますので確認が必要です。 - 1年おきに更新手続きが必要である
初回の申請時に医師の意見書が必要ですが、その後も1年おきに申請書を提出しての更新手続きが必要です。2年おきには再び医師の意見書が必要となります。そのほか、かかりつけ医や薬局を変更したい場合などもその都度変更申請が必要であり、事前に変更しておかなければ支給を受けることはできません。
訪問看護ステーションが入っていると、大変な手続きもサポートしてくれるところがほとんどであり安心でしょう。
4.申請と更新、変更の流れ
以下に、申請に必要なものを載せています。
◯新規申請、継続申請、再申請
申請書
自立支援医療費の意見書(精神通院用)
受給者証原本(継続申請・再申請の場合)
健康保険証
本人の1年間の収入がわかるもの ★
マイナンバーに係る確認書類
※ 健康保険証について:国民健康保険の場合、同一保険の家族全員の保険証の写しが必要。また、後期高齢者医療の場合も、同一世帯で後期高齢者医療の方全員の保険証の写しが必要。
◯変更申請
<自己負担上限額の変更>
申請書
受給者証原本
健康保険証
本人の1年間の収入がわかるもの ★
マイナンバーに係る確認書類
※ 健康保険証について:国民健康保険の場合、同一保険の家族全員の保険証の写しが必要。また、後期高齢者医療の場合も、同一世帯で後期高齢者医療の方全員の保険証の写しが必要。
<医療機関、薬局、訪問看護事業所等の変更、追加>
申請書
受給者証
マイナンバーに係る確認書類
※デイケア、訪問看護等を追加する場合、自立支援医療費の意見書(精神通院用)の添付が必要(訪問看護を追加する場合は訪問看護指示書でも可)
(参考:熊本市HP 健康福祉局 障がい者支援部 こころの健康センター 自立支援医療(精神通院医療))
私がこの手続き上で難しさを感じた部分が、★をつけていた「本人の1年間の収入がわかるもの」でした。
★市民税が非課税の場合には「本人の1年間の収入がわかるもの」が必要となります。申請日がその年の6月以前の場合は前々年分、7月以降の場合は前年分の収入がわかる書類の提出が必要となります。(例)年金振込通知書、振込のあった通帳のコピー等
こちらの書類の準備を忘れていたり、見つからないなどして申請できなかったり、期限に間に合わなくなってしまうことがないよう十分注意されてください。
更新時には確認や準備も多く、以下のフローチャートも参考にしてくださればと思います。
私自身、訪問看護ステーションで勤めるなかでご利用者様の手続きをサポートしてきましたが、不備不足も多々あり、何度も役所担当者様に教えられながら理解していきました。特に新入社員の方などに教えていく際にも図やフローがあると不安を少しでも解消できるのではないかと感じて作成してきました。
以上、参考にしてくだされば幸いです。