認知症の方と接する中で、「どう関わればいいのかわからない」「相手の気持ちが理解できない」と感じたことはありませんか?
高齢者人口の増加に伴い、認知症と診断される方も増えています。認知症とは誰もがなりうるものであり、家族や身近な人に起こることも十分に考えられます。
看護師としての役割を果たすうえで、認知症への理解は不可欠であり、認知症になったご本人への理解にもつながります。
本記事では、認知症を正しく理解するための視点やコミュニケーションのポイント、訪問看護師が果たすべき役割にも触れていきます。現場で役立つ実践的な内容をお届けしますので、ぜひ最後までご覧ください。
この記事を書いたひと:shannmama
認知症を理解するための3つの視点とコミュニケーションのポイント
国は認知症に対する施策として、2019年に『認知症施策推進大網』を、2024年に『認知症基本法』を取りまとめています。
また2000年に施行された介護保険法は、施行後3年ごとに改正が行われており、その中においても様々な認知症施策が推進されています。
国はこれらの施策のなかで、住み慣れた地域の中で尊厳が守られ、自分らしく暮らし続けることができる社会を目指すことを目標としており、ここに訪問看護師としての重要な役割が託されています。
認知症の症状は年単位で少しずつ進行するため、予測に応じたケアマネジメントの視点が重要です。まずは認知症を正しく理解するための3つの視点について見ていきましょう。
視点①:尊厳を守り、ありのままを受け入れる
認知症の中核症状のひとつである記憶障害は、特にご家族やスタッフが戸惑いやすいポイントです。新しい出来事を覚えられない反面、昔の記憶は鮮明であることも特徴です。
この特徴を理解することで、過去の話題をきっかけにした会話や安心感を与える工夫が可能になります。
相手の記憶を無理に正そうとするのではなく、寄り添う姿勢が大切です。
ときには感情が不安定になり、小さな刺激で急に怒ったり、悲しんだりすることがあります。しかし、その背景には、「理解されない不安」や「混乱への恐れ」などがあり、その想いに目を向ける必要があります。
認知症の症状が進行しても、本人の「尊厳」は失われません。たとえ判断力や記憶力が低下していても、「誠意を持って接してくれているかどうか」「一人の人間として対等に扱われているかどうか」は、ご本人が感じ取るものです。
何気ない言葉遣いや視線、態度のひとつひとつが、信頼関係に大きく影響します。
ありのままを受け入れ、対等な立場で接することが、安心と自信を与える鍵になります。
☆コミュニケーションのポイント☆ ①わかりやすい言葉を選び、穏やかなトーンで話す →質問には単語や短い文節を使いながら、選択肢を与えるなどの工夫をする ②傾聴や共感を大事にする →話の内容に一貫性がなくても、話そうとする思いに耳を傾けることが大切であり、相手の言葉を否定せず、気持ちを受け止める ③非言語的コミュニケーションの活用 →表情、身振り、視線などの非言語的な要素は、認知症の方とのコミュニケーションにおいて非常に効果である |
視点②:行動や生活リズムの変化には環境を調整する
認知症の進行とともに、食事や入浴を忘れる、着替え方がわからない、排泄の失敗などが見られることもあります。
こうした行動の変化に対しては、無理に整えようとするのではなく、その方の決まったルーティンや慣れ親しんだ空間の維持が、混乱の軽減に繋がります。
例えば入浴後は着替えがスムーズにできるよう、着替えのわかりやすい定位置を作る、トイレだとわかるようにドアに表示をするなどの環境調整を行うことで混乱を防ぎ、できることやできる可能性につながります。
認知症の進行に伴い、論理的思考力や判断力の低下とともに、妄想症状や徘徊などが見られることもあります。このような状況は、ご本人を強く混乱させ、ときには暴言や暴力などの攻撃的な行為に繋がってしまう恐れもあります。
しかし、これらは認知症による病状がそうさせているのであって、ご本人はご家族や他人に迷惑をかけたくないという思いを抱えていることが多くあります。そのため、病状そのものを指摘するのではなく、周囲のさりげない援助が、ご本人の尊厳を守るケアにつながります。
☆援助のポイント☆ ①できないことに対して、無理にできるように整えようとしない ②「できること」や「できる可能性のあること」に目を向け、ご本人が持つ力を最大限に活かす ③周囲のさりげない援助が、ご本人の尊厳を守るケアにつながる |
視点③:家族とのコミュニケーション
認知症のケアにおいて、家族の存在は欠かせません。認知症の進行に伴い、ご家族は人が変わったようだという喪失体験をします。家族自身も不安や疲労を抱えており、支援を必要としています。
看護師として、ご家族とのコミュニケーションを丁寧に行い、本人の状態やケアの方法を共有することが重要です。ご家族とのコミュニケーションでは、自分の思いが語れるように言葉を引き出し、発する言葉をありのままに受け止めるという視点が大事になってきます。
認知症理解のための視点を踏まえた上での、訪問看護師に求められる認知症ケアの役割について考えていきましょう。
訪問看護師に求められる認知症ケアの役割
訪問看護師に求められる認知症ケアの役割として、以下の3つを挙げました。
役割①:フィジカルアセスメント 役割②:認知症ご本人とご家族とをつなぐ架け橋 役割③:医療チームにおいて進行を予測した連携を図る |
日常の些細な変化を見逃さずにアセスメントし、他職種と連携を図りながら、ご本人とご家族をつなぐ架け橋としての役割が期待されます。
役割①:フィジカルアセスメント
訪問看護師に求められる役割の1つ目は、フィジカルアセスメントです。
認知症の進行状況はその方によって異なり、日々の中で変化します。そのため自宅に定期的に伺う訪問看護師による観察と記録は、的確なケアを行うための基礎となります。
認知症の進行に伴い、食事や排泄状況、疼痛など不快な症状の憎悪を自己評価することが難しくなります。また本人からの問診だけでは正確な情報は得られにくく、視診、聴診、触診や打診などを用いて身体状況をよく観察する必要があります。
特に認知症後期では、筋力低下や関節の拘縮、誤嚥や褥瘡など合併症や感染症を起こしやすくなります。訪問看護師の役割としては、フィジカルアセスメントを用いて身体状況をよく観察し異常の早期発見に努め、適切な日常生活援助を行いながら合併症の予防に努めることが求められます。
異常の早期発見や合併症予防の視点に応じて、医師や他の職種と情報を共有することが、質の高いケアを支えるポイントです。
役割②:認知症ご本人とご家族とをつなぐ架け橋
訪問看護師に求められる役割の2つ目は、認知症ご本人とご家族とをつなぐ架け橋としての役割です。
看護師は、ご本人とご家族の双方に関わるため、誤解や不安を和らげる役割を担います。その方の行動の意味を家族に伝えたり、ケアの方法を一緒に考えたりすることで、信頼関係を築いていきます。
相互理解の橋渡しができることは、訪問看護師の大きな強みです。また進行を予測した医療や介護サービスの情報提供を行い、ご本人ご家族がどう受け止めたのかを言葉で確認するなど、意思決定を支えることも重要な役割のひとつです。
役割③:医療チームにおいて進行を予測した連携を図る
訪問看護師に求められる役割の3つ目は、医療チームにおいて進行を予測した連携を図ることです。
認知症ケアには訪問看護師のほかに、医師、介護士、セラピスト、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど多職種が関わります。その中で、訪問看護師は日常的なケアを通じて得た情報を他職種と共有し、チーム全体の連携を支える役割を果たします。
訪問看護師の、日常の観察と進行を予測した視点と判断が、チームの方針を左右することも少なくありません。
まとめ
認知症の理解を深めるための視点やコミュニケーションのポイント、訪問看護師が果たす重要な役割についてのまとめは以下です。
・認知症理解のためには、ありのままを受け入れ、さりげなく援助することが尊厳を守ることに繋がる ・認知症の方とのコミュニケーションのポイントは、平易な言葉に言い換え、非言語的コミュニケーションを用いるなど、対話を工夫することである ・訪問看護師の役割は、フィジカルアセスメントを用いて異常の早期発見や合併症の予防に努めることである ・訪問看護師は、本人と家族をつなぐ架け橋としての役割があり、進行を予測したサービスの調整も大事な役割である |
この記事を通じて、認知症理解の重要性と、訪問看護師として果たすべき役割について具体的にご紹介しました。
認知症が進行していく中で、その方自身が大事にしてきたことを守り、尊厳あるケアを提供することが訪問看護師の最大の役割です。
日々のケアの中で、少しの意識と工夫が、その方とご家族の安心につながります。認知症を「理解すること」から、より良いケアを始めてみましょう。
この記事を書いたひと:shannmama