看護師が営業をしなくてはならない?
訪問看護ステーション運営では、多くの人が感じることになる障壁があります。それはPR活動(営業活動)です。病院を母体に持たない訪問看護ステーションには、向こうから利用者様が来るわけではありません。
まずは何よりも周囲に自分たちのステーションを認知してもらう必要がありますし、それは開設時のみならず、量の拡大が続き、質も高まっていくこれからの時代では、継続的に必要となります。
私がケアマネージャー様や施設経営者様とお話しをさせていただいたなかでよく聞かれる声は、
「最近、訪問看護ステーションが次々に立って、ひっきりなしに挨拶に来るけど、正直どこがどこだか分からないね」というものです。
訪問看護事業者からすればショックではありますが、事実、様々な強みや特色を持つステーションが次々と現れていますので、覚えていただくことも簡単ではありません。そのためPR活動の重要性も高まります。
しかしながら、看護師のみではなく医療従者者の大半は病院で勤務してきており、基本的には営業活動を必要としない業務ですので、実際にPRと聞くだけで、
「私は営業をしたいのではなく、看護をするためにきた」
「PR活動は管理者がする仕事であって、私たちには関係ない」
「営業みたいなことは苦手だから」
といったスタッフからの声も聞かれるのではないでしょうか。
わたし自身、地域に選ばれるステーションに成長していくため、訪問看護と同等の熱量でPR活動を行なってきましたが、PR活動は経営者、または、管理者だけが行うものではなく、実際にケアを提供しているスタッフと「ともに」行なっていくことが大切であると気づきました。
今回は、私が熊本県内で訪問看護ステーションのPRを行ってきたなかで大切にしてきた根本となる考えを、3つに絞ってご紹介させていただきます。
訪問看護事業者様で、PR活動に苦戦している方にとって、この考えをもとにスタッフと話をしていくことで、ステーションの全員が同じベクトルで活動していくヒントになれば幸いです。
結論
- 「手段」のみではなく「目的」を伝えられること
- 日々の情報提供が最大のPRであること
- 顔の見える関係性づくりが「地域連携」を作り上げていくこと
1.「手段」のみではなく「目的」を伝えられること
PR活動では、自社の訪問看護ステーションをアピールすることに間違いはありません。ステーションとしての強みや特色を理解していただく必要もあります。
しかし、訪問看護の根本的な目的は、お困りの方々の生活を支え、地域に貢献することにあります。
この目的が「利用者を獲得するため」になっている、もしくは、そう聞こえてしまうPRがあるのです。
訪問看護事業者の皆様は、会社の企業理念を見返していただくと良いかと思いますが、理念に「会社を大きくします」「利用者数を増やします」「利益をあげます」などとは記されていないでしょう。
目的を達成するための手段として、看護師がいて、他職種がいて、様々なサービス体制を整えているはずですし、その過程で利用者様は増えていきます。
つまり「手段をもとにサービスを提供し、過程として利用者数が増え、目的が達成されるとき、人々や地域への貢献につながる」ということです。
よく見られるPR活動では「看護師以外にも理学療法士や作業療法士がいます」「自費サービスで送迎もします」「受診同行します」など手段ばかりをアピールしてしまうケースがあります。
目的は語られず、手段や過程のみをPRしてしまうと、重要な「誰のため」「何のため」がないため、実際の支援を想像していただくまで至らないのです。
ややもすると「利用者を獲得するためのPR」に聞こえてしまい、それは押し売りに聞こえますし、お金儲けに感じられてしまうと逆効果を生むことも考えられます。
そのため、お困りの方々に対して手段を用いてどのように支援していくのか、何のために行うのかという目的をもとに、PR活動していくことが重要になります。
では、具体的に私自身はどのようにPR活動を行なっていたのか。
◇病院や地域の支援者様に対して
- 「地域でお困りの方々に対して、一人でも多くの方を我々のサービスで支えていきたい」
- 「私どもにできる〇〇な看護で、少しでもお力添えができるならば精一杯やらせていただく」
- 「対象者様の安定のために、〇〇な体制を組み、〇〇なサービスを提供するため、ぜひ任せていただきたい」
◇PR活動を行う自社のスタッフさんたちに対して
- 「私たちの看護で地域の方々を支えていくためにも、日頃の取り組みや頑張りを知ってもらおう」
- 「PRする目的はお金ではなく、利用者様のためにある。とはいえ、規模拡大やスタッフの増員がなければ質の向上も新たな取り組みも不可能になる。衰退しては既存の利用者様も支えられなくなる。そのためPRは必要なもの」
このようにお伝えすることにより、信頼を構築していきました。
スタッフさんたちに対しても、上記の伝え方であれば必要性を理解していただけるケースが多かったと思います。
ステーションによって、環境も体制もスタッフさんたちが求めることも違いますので、それぞれの伝え方は異なりますが、異なるとしても「目的」を履き違えてしまわないようにしておくことは何より重要です。
2.日々の情報提供が最大のPRであること
こちらは独自に作成した図で説明させていただきます。
それぞれのステーションによって解釈は異なると思いますが、日々の情報提供が関係機関のご担当者様にとって重要でありがたいものとなり、信頼できるステーションとなっていきます。
これが最大のPRであり、関係機関との信頼関係を築いていくことで、地域に根付いたステーションになっていくでしょう。
そのため、冒頭でお伝えさせていただいように経営者や管理者だけがPRするのではなく、実際に訪問看護を提供しているスタッフが生きた情報を提供することが重要なのです。
3.顔の見える関係性づくりが「地域連携」を作り上げていくこと
ケアマネージャー様や計画相談員様など、地域の支援者様に「どこの訪問看護ステーションを選ばれているか」とのお話しを伺うと、その多くは「どのような方が管理をされていて、どのような看護師さんが訪問してくれるのか知っているところ」と話されていました。
どんなに素晴らしい知識技術を持っていたとしても、実際に話をしてみてどのような人が訪問看護に行ってくれるのかが分からないと、頼みたいとはならないのです。
何か特別なPR方法が必要なわけではなく、普段から積極的に足を運び、顔を合わせて話ができるようにしておくことで、依頼したいステーションの一つに入っていくことができるでしょう。
また、病院や包括支援センター、相談支援事業所など地域の支援者様たちのもとには、常に新しいステーションがPRに訪れており「最近次々に挨拶に来るなぁ」と思われていることもしばしばです。
そんな中、顔を見なくなるステーションに対して、支援者様も決して悪い印象を持つわけではありませんが「忙しいのだろう」と思われます。すると、
「頼みたい対象者がいるけれど、忙しいだろうし、また今度連絡しよう」
となることもあります。
ここで問題となるのは、訪問看護ステーションにとって新規相談が来なかったことだけではありません。
一人の対象者様が、訪問看護の介入により救われる機会を足踏みさせてしまったことが重大な問題です。
訪問看護が入ることで、病状悪化の早期発見や再入院の予防、日常生活の支援などが可能となります。しかし、上記のように関係機関に足踏みをさせてしまい、訪問看護またはその他のサービス導入に遅れが生じてしまうと、それだけ対象者様のリスクは上がってしまいます。
訪問看護のメリットについては、こちらの投稿でも記載させていただいております。
必要な対象者様に、必要なタイミングでサービスを提供することができるよう、日頃から自分たちの活動状況をお伝えしておくことも大切なつながりになっていきます。
PR方法には、電話連絡やメール、FAXやフライヤーなど、様々な方法がありますが、普段から足を運び、顔の見える関係性を構築しておくことで信頼関係が築かれ、一人、また一人と自分たちの訪問看護サービスで生活を支えることができます。
それこそが訪問看護をPRする本来の目的であり「地域連携」を作り上げていくことにつながって行きます。
今回は、これまで実際に熊本県内で訪問看護ステーションのPRを行ってきたなかで、私が大切にしてきた根本となる考えを、3つに絞ってご紹介させていただきました。
すべては、地域でお困りの方々を支えていくための訪問看護サービスであるという根本を忘れることなくPRできるか、その想い、熱意が伝わることが大事なことであると考えています。
以上、参考にしてくだされば幸いです。